「よし、この厚い買い板に乗るぞ!」とエントリーした瞬間、その板が蜃気楼のように消え去り、株価は奈落の底へ…。
「この損切りラインだけは死守…」と祈っていたら、一瞬だけヒゲが伸びてきて自分の注文だけを狩り取り、V字回復していく…。
まるでこちらの思考を読んでいるかのような、人間業とは思えない超常現象。あなたは「自分は監視されているのか…?」と、本気で部屋に盗聴器がないか探した経験はありませんか?
その犯人、人間ではありません。正体は「アルゴリズム(通称:アルゴ)」です。
今の株式市場の取引の約7割は、感情を持たない超高速の”機械兵士”たちが支配しています。あなたが戦っている相手は、ターミネーターだったのです。
「機械相手に勝てるわけないじゃん…」と絶望するのはまだ早い。この記事では、彼ら”機械兵士”の動きを見極めるための「索敵スコープ」と、その動きを利用して利益を上げるための「禁断の操縦マニュアル」を、あなただけにお渡しします。この記事を読み終える頃には、あなたはアルゴを恐れる子羊から、アルゴの波に乗る熟練のサーファーへと変貌していることでしょう!
まず知るべき!市場に巣食う「機械兵士」たちの正体
アルゴリズムとは、特定のルールに従って、人間の判断を介さずに超高速で株式売買を繰り返すプログラムのこと。まずは、あなたと彼らの絶望的なスペック差を見てみましょう。
【人間トレーダー vs 機械兵士(アルゴ)】
項目 | あなた(人間) | ヤツら(アルゴ) |
---|---|---|
取引速度 | 最速でも0.5秒(マウスをカチッ) | マイクロ秒(100万分の1秒) |
感情 | 恐怖、欲望、希望、絶望のオンパレード | 無 |
体力 | トイレに行く。ご飯を食べる。疲れる。 | 24時間365日稼働可能 |
判断基準 | チャート、板、勘、隣の人の声 | プログラムされた冷徹なロジックのみ |
…もはや絶望的ですよね。しかし、彼らには唯一の弱点があります。それは、「プログラム通りにしか動けない」ということ。その”クセ”さえ見抜けば、彼らは脅威ではなく、むしろ利益の源泉となるのです。
【索敵スコープ】板と歩み値に現れるアルゴの”足跡”を見つけよ!
アルゴは姿を見せませんが、必ず「板」と「歩み値」に痕跡を残します。ここでは、代表的なアルゴの足跡パターンをカタログ形式でご紹介します。
パターン①:マシンガン注文(執行アルゴ)
【歩み値の状況】 10:01:01 1000円 100株 10:01:02 1000円 100株 10:01:03 1000円 100株 10:01:04 1001円 100株 10:01:05 1001円 100株 ...というように、同じ株数が断続的に約定し続ける。
目的:大口投資家が、自分の買いで株価を吊り上げないよう、注文を小分けにして静かに買い集めている可能性が高い。「VWAP(売買高加重平均価格)」などの指標に沿って機械的に執行している場合が多い。
パターン②:壁ドンからの消失(見せ板アルゴ)
【板の状況】 売り | 買い | 1005円 10,000株 | 1004円 8,000株 1003円 200,000株←突然、巨大な壁が出現! 1002円 5,000株 1001円 3,000株 ...しかし、株価が1002円に近づくと、1003円の20万株が跡形もなく消える。
目的:「こんなに厚い買い支えがあるから大丈夫」と個人に思わせて買わせる、あるいは「この壁は抜けそうにない」と売り方に思わせる心理操作。約定させる気のない罠である可能性が高い。
パターン③:無限湧き泉(アイスバーグ注文)
【板と歩み値の連動】 [板] 1010円に【10,000株】の売り板がある ↓ [歩み値] 誰かが1010円の10,000株を全部買った! ↓ [板] なぜか即座に1010円に【10,000株】の売り注文が補充される これが何度も繰り返される。
目的:本当の注文数(例えば50万株)を隠し、市場にインパクトを与えずに少しずつ売却(または購入)するため。氷山の一角しか見えていない状態。
【実践マニュアル】アルゴの”クセ”を利用して出し抜け!
敵のパターンが見えたら、次はこちらの行動です。アルゴを「敵」と見なすか「乗り物」と見なすかで、戦略は大きく変わります。
戦略①:静かなるハンターには「コバンザメ戦法」
対象アルゴ:マシンガン注文、無限湧き泉(買いの場合)
彼らの目的は「静かに買い集めること」。つまり、彼らがいる方向は、少なくとも短期的には上昇しやすいと言えます。
- 歩み値でマシンガン買いや、特定の価格帯での執拗な買いを発見する。
- 彼らの邪魔にならないよう、そっと同じ方向にエントリーする。
- 彼らの買いが止まった(=歩み値の連続約定が途切れた)ら、欲張らずにさっと利益確定する。
巨大なクジラ(大口)にくっついて、おこぼれを頂戴するコバンザメになりましょう。
戦略②:心理操作の罠には「歩み値絶対主義」
対象アルゴ:壁ドンからの消失(見せ板アルゴ)
彼らは板という”見た目”であなたを騙そうとしてきます。騙されないための唯一の方法は、”事実”だけを見ることです。
呪文:「板は希望、歩み値は真実」
- どんなに厚い板が出現しても、歩み値で実際にその価格が約定されるまでは信用しない。
- 厚い板が本当に「食われる(約定する)」瞬間を歩み値で確認できれば、それは本物の需要。絶好のエントリーチャンスになる。
板情報に惑わされそうになったら、この呪文を3回唱えてください。
戦略③:そもそも「アルゴがいない場所」で戦う
アルゴ(特にHFT)は、流動性が高く、値動きの激しい大型株を好みます。彼らとの殴り合いに疲れたら、戦場を変えるのも賢い戦略です。
- 東証グロース市場の時価総額が低い銘柄
- 出来高が比較的少ない銘柄
こういった銘柄は、アルゴが少なく、比較的”人間らしい”値動きをすることが多いです。ただし、流動性が低いゆえのリスク(買いたい時に買えない、売りたい時に売れない)もあるので注意が必要です。
まとめ:ターミネーターは、もう友達
もはや、デイトレードの世界でアルゴから逃げることはできません。しかし、彼らの正体と行動パターンを知ったあなたは、もう無力な人間ではありません。
- アルゴの正体を知る:市場の約7割を占める、感情のない超高速の機械兵士である。
- アルゴの足跡を見つける:板と歩み値に現れる「マシンガン」「見せ板」「アイスバーグ」などの特徴的なパターンを覚える。
- アルゴのクセを利用する:買い集めアルゴには「コバンザメ」で乗り、見せ板アルゴは「歩み値」で見破る。
- 戦場を選ぶ:アルゴが少ない銘柄で戦うという選択肢も持つ。
アルゴは、時にあなたのストップロスを狩る冷酷な暗殺者ですが、時にあなたを利益へと運んでくれる力強い乗り物にもなります。彼らの”クセ”を理解し、手玉に取り、明日からのトレードで圧倒的な優位性を築き上げてください!
参考文献
- マイケル・ルイス『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』
- 東京証券取引所 市場構造の在り方等に関する懇談会 資料
- 金融庁「アルゴリズム取引等への対応」に関する各種報告書