含み益、それはまるで幻。スマホ画面に表示された緑色の数字は、瞬きをした瞬間に赤色に変わるかもしれない蜃気楼…。
「よし、トレンドに乗れた!今日こそは爆益だ!」と意気込んだ数分後、+5,000円の含み益が+4,500円になった瞬間、心臓を鷲掴みにされるような恐怖に襲われ、光の速さで利確ボタンを連打。そして、その直後に株価は成層圏までぶっ飛んでいく…。
「あああああ!なんで俺はいつもこうなんだ!」
もしあなたが「チキン利食い選手権」に出場したら、間違いなく日本代表になれる。そんな自信があるのではないでしょうか?
ご安心ください。その「利益を伸ばせない恐怖」、あなたのメンタルが豆腐だからではありません。犯人は、あなたの脳に太古の昔からインストールされている”欠陥プログラム”なのです。
この記事では、「気合で我慢しろ!」といった江戸時代のような精神論は一切語りません。その代わり、科学的な根拠に基づき、あなたの脳を優しくハッキングして「利益を伸ばすのが怖くなくなる」具体的なテクニックを、世界一わかりやすく解説します。今日で、恐怖心とはおさらばです!
なぜ?あなたの脳内では「恐怖の大王」が暴れている!
「利益を伸ばすのが怖い」と感じる時、あなたの脳内では壮絶なドラマが繰り広げられています。その主役こそが、ノーベル賞学者も見つけた脳の厄介なクセ「プロスペクト理論」です。
【超訳:プロスペクト理論】
人間は… 「1万円儲ける喜び」より「1万円失う痛み」を2倍以上強く感じる! 【あなたの感情シーソー】 ▲ 喜び(+1.0G) | | ●(1万円GET!) | -----+----- | | ●(1万円LOST...) | ▼ 痛み・恐怖(-2.5G) ※G=重力
この脳の仕様が、含み益の場面で最悪のパニックを引き起こします。
あなたの脳にとって、「含み益」は「まだ手に入れていない利益」ではありません。それは「今まさに失うかもしれない、手の中にある(と思い込んでいる)お金」なのです。
だから、含み益が少しでも減ると、脳は「やばい!資産が減ってる!痛みを感じる!」と勘違いし、緊急避難警報を発令。あなたに利確ボタンを押させて、その”痛み”から逃れさせようとするのです。実にありがた迷惑な機能ですね。
【恐怖!チキン利食い発動のメカニズム】
[STEP 1:含み益発生] +10,000円の含み益。「やった!」(喜びレベル+100) ↓ [STEP 2:含み益が少し減少] +8,000円に減る。「2,000円失った!」と脳が誤作動。 (痛みレベル-4,000 ※喜びの2倍以上) ↓ [STEP 3:パニックモード突入] 「これ以上痛いのは嫌だ!早く逃げろ!」と脳が大絶叫。 あなたの理性は完全に麻痺。 ↓ [STEP 4:秒速利確] 恐怖から逃れるため、残りの+8,000円を光の速さで確定。 「ふぅ…助かった…」と安堵する。 ↓ [STEP 5:絶望] 利確後、株価が+50,000円まで爆上げ。新たな恐怖(機会損失)が生まれる。
このメカニズムを知れば、「怖い」と感じるのは当然だと思えませんか?まずは、そんな自分を許してあげましょう。その上で、このお節介な脳を手なずけるための具体的な処方箋をご紹介します。
【脱チキン専門外来】恐怖心を快感に変える4つの処方箋
意志の力で恐怖に打ち勝つのは不可能です。恐怖を感じる前に、あるいは感じても大丈夫な「仕組み」を作ってしまいましょう。
処方箋①:最強の精神安定剤「分割決済(一部利確)」
「利益を確保したい」という恐怖と「利益を伸ばしたい」という欲望。この二つを同時に満たす、まさに神業です。
【分割決済の魔法】
通常の利確 | 分割決済 | |
---|---|---|
行動 | 含み益が減る恐怖に耐えきれず、全ポジション利確。 | まず半分だけ利確して利益を確保。←ここで脳が安心する |
メンタル | 利確後の爆上げに絶望。「もっと持てばよかった…」 | 「もう負けはない」状態なので、残りはゲーム感覚で気楽に持てる。 |
結果 | 小さな利益のみ。 | 最低限の利益を確保しつつ、大きな利益を狙える。 |
【実践方法】
例えば1000株でエントリーしたら、目標利益の半分まで来たら500株を利確。そして、残りの500株の損切りラインを、自分がエントリーした価格(建値)に設定します。これで、あなたの心には「もうこのトレードで損することはない」という絶対的な平和が訪れます。あとはリラックスして、利益がどこまで伸びるか見届けるだけです。
処方箋②:感情を揺さぶる元凶を消す「損益非表示」
あなたの恐怖を煽る最大の原因は、チカチカと点滅する「損益額」です。ならば、見えなくしてしまいましょう。
多くの取引ツールには、リアルタイムの損益(P/L)を非表示にする機能があります。これを実行すると、あなたは金額の増減ではなく、「チャートの形」という客観的な事実だけで判断せざるを得なくなります。
「このレジスタンスラインを抜けたら」「移動平均線を割り込んだら」といった、事前に決めたルール通りに行動する訓練になります。これはまさに「デジタルの座禅」です。
処方箋③:究極の他力本願「トレイリングストップ注文」
自分の意志が信用できないなら、機械に任せてしまいましょう。「トレイリングストップ」は、利益を自動で追いかけてくれる賢い注文方法です。
【トレイリングストップの仕組み】
設定:株価の最高値から【10円】下がったら売る ①株価が1000円の時に買う ↓ ②株価が1050円に上がる → 損切りラインが自動で1040円に設定される ↓ ③株価が1080円に上がる → 損切りラインが自動で1070円に設定される ↓ ④株価が1070円に下がる → 自動で利確! ※株価が上がっている間は、どこまでも利益を追いかけてくれる!
これなら、あなたが恐怖を感じる前に、システムが利益を確保しながら最大限に伸ばしてくれます。まさに感情を排除した最強の武器です。
処方箋④:目標を粉々にする「ベイビーステップ法」
「よし、今日は+5万円まで利益を伸ばすぞ!」と大きな目標を立てるから、少しの逆行が怖くなるのです。目標のハードルを、ありえないくらい下げてみましょう。
- 「いつも利確するポイントから、あと1ティックだけ我慢する」
- 「ローソク足があと1本確定するまで待ってみる」
- 「あと3分だけポジションを持ってみる」
こんな赤ちゃんのようなステップで構いません。クリアできたら、自分を盛大に褒めてあげてください。この小さな成功体験の積み重ねが、「利益を伸ばすのは怖くない。むしろ快感だ」という新しい記憶を、あなたの脳に上書き保存してくれるのです。
まとめ:恐怖の先にある”爆益”をその手に掴め!
「利益を伸ばせない、怖い」という悩みは、デイトレーダーなら誰もが通る道です。しかし、その正体と対策を知ったあなたは、もう昨日までのあなたではありません。
- 利益を伸ばすのが怖いのは、脳の「プロスペクト理論」という正常なバグのせい。
- 意志の力でなく「仕組み」で恐怖をコントロールするのが唯一の解決策。
- 処方箋①:「分割決済」で心に平和をもたらす。
- 処方箋②:「損益非表示」で感情の波をなくす。
- 処方箋③:「トレイリングストップ」で機械に任せる。
- 処方箋④:「ベイビーステップ」で成功体験を積む。
今日からすべてを実践する必要はありません。まずは、あなたの心が一番しっくりきた「処方箋」を一つだけ、次のトレードで試してみてください。その小さな一歩が、あなたのトレーダー人生を大きく変える、偉大な一歩になることを保証します!
参考文献
- ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』
- マーク・ダグラス『規律とトレーダー』
- 行動経済学に関する各種ウェブサイト、論文